電車にて。

金曜の晩の電車は混む。終電近くなると、殺人的に混む。

同じ車両に、祖母らしき人と、孫娘、孫息子らしい3人連れがいました。小さな孫娘は、床にへたりこみ、今にも眠りそう。そのお兄ちゃんらしき孫息子も、妹をかばって、折り重なるように床に座りこみました。

電車はますます混んできます。少し離れて立ってたワタシは、彼らが蹴り飛ばされないかと、ひやひやしながら遠目に眺めていたのでありました。

ワタシの前の席が空いたので、おばあさんを呼びました。ここあいてますよ、と。しかし、怒濤のごとく乗客が押し寄せ、人波に3人の姿は消え。ワタシは居心地わるく、席に座ったのでありました。

しばらくして。少し空いてきたので、おばあさんを探すと。彼女も小さな姿で背伸びをして、ワタシを探していたのでありました。思いきって、座席にカバンを置き、おばあさんを呼びました。

おばあさんに連れられて、やってきた女の子は、席につくなり、すうすうと寝息をたてました。お兄ちゃんは、おばあさんに寄り掛かりながら、それでも必死に足を踏ん張り立っています。

まったく、こんな時間に、ばあさんと小さな子たちが電車に乗るなんて…と思っていると。おばあさんは、これはあたしの孫でね、年長さんと小学4年生なんですよ、と言います。スケートをね、見せてやったんですよ、と少し誇らしそう。

子どもの頃に、色んなものを見せてもらえるのはいいですね、と言うと。この前は、ベトナムに行った、その前は香港のディズニーランドに行った、と、さらに誇らしそう。こんな小さな時のことは、忘れてしまうかもしれないけど…

いいえ、おばあさん。小さな頃の思い出は、誰かの話で補強され、そして別の思い出に生まれ変わるものかもしれませんよ、と思いながら。おばあさんの問わず語りを聞いていたのでありました。

そんな話をしている目の前で、女の子は、隣のおじさんの腕に顔を寄せて気持ちよさそうに眠っています。

ワタシも、どこででも眠る子どもでした。母に言わせると「とんころねえちゃん」というあだ名で。横になったらころっと眠る。アンタが寝ると重たくなってね。起こすと、この上なく不機嫌で。そうそうお兄ちゃんと一緒に横浜から二人だけで帰ってきたとき。アンタがあんまりぐっすりと眠るので、このまま起きないんじゃないかとひやひやしたって、お兄ちゃんはずいぶん心配したらしいよ。

それが今じゃ、予算組みに追われ、新規の仕事で頭を悩まし、階下の同棲カップルの夜の声に不眠の日々を送っているとは…。おしゃかさまでも思うめえ。

女の子の健やかな眠りが、いつまでも続きますように…なんて言ってられる場合ではなく。もう一つのあいた席に座らせたお兄ちゃんもこっくりこっくりしています。おばあさんに、起こすの大変ですね、だいじょうぶですかと聞くと。ああ、大丈夫よ、むこうにお父さんとお母さんがいるから。

な、なんだってー。

混み混みの電車で、あんな床にへたりこんだ子どもたちを小さなばあさんに預けて平気な面した夫婦の顔が見てみたい。なんて言うのはうそですが(笑)だったら、大丈夫ですね〜、とワタシは先に電車を降りたのでした。