水曜日の外国語

外国語の水曜日―学習法としての言語学入門

「水曜日の外国語-学習法としての言語学入門」(黒田龍之助著・現代書館)についてです。
黒田氏の著作は以前、『羊皮紙に眠る文字たち』をこちらでご紹介しました。このヒトの本はやる気がなくなった時に、モチベーションがなんとなく高まってくるので、ちょっとお勧めです。理系大学でロシア語および言語学を教えてらっしゃるそうで、本書は4部立て。

  • 第1章 水曜日の外国語研究室(自分の教え子たちの観察および考察)
  • 第2章 外国語幻想(これはうなずくことしきり)
  • 第3章 学習法としての言語学入門(言語の世界を概観できます)
  • 第4章 本と映像に見る外国語(さまざまな言語の体験談や映像を紹介)

私は、この本の中で第1章にある「ムーミンを世界一苦しみながら読む青年」の話が大好きです。第1章は、理系大学の院生・学生さんたちが黒田氏の研究室に集まり、色々な言語を一緒に学んでゆく様子が描かれているのですが、そのうちフィンランド語を学ぼうと決めた日本人の「アンドレイ」君(ニックネーム)が主人公のお話。

アンドレイ君は生真面目で陰鬱な青年です。ロシア語研修旅行に行った際、フィンランド語に目覚め、ムーミンの雑誌をお土産に買ってきました。全くの独学で、それを辞書を引き引き、小さな声で「わからないなぁ」とつぶやきながら読む。まわりに呆れられながらも、コツコツと品詞分解をしながら、読む。その姿に周囲は少しずつ理解と畏敬の念を持つようになります。

そして、アンドレイ君に思わぬギフトが。フィンランド人の研究者が来日するのです。アンドレイ君は少しでもお話がしたいと、会話集に取り組み、そして当日。ネクタイを締めてフィンランドの研究者の講演を聞きにゆき、なんとその先生からレッスンを受けられることになったのです。

私は、本当に良かったなぁ、良かったなぁと(他人事なのに)思ってしまいました。母語を学びたい人が少ない場合、その話者は学びたい人に対して、得てして親切になるものだ、と黒田氏は解説しておられました。もちろん、それもあるんでしょうが、私はコツコツと地味に努力するアンドレイ君が報われることに、喝采しました。

フィンランド語は、名詞の格変化が単数で14、複数で15もあるというロシア語学習者にとって畏敬の対象です。ロシア語なんて、「たったの」単数6、複数6しか格変化はありません。しかも、ロシア語は日本では英語などに比べたら教材も少ないし、なじみの薄い言語であるかもしれませんが、ラジオ講座はありますし、テレビ講座だって(アラビア語におされつつありますが)あります。そう、泣き言を言っては、他の言語を真摯に学ばれている方に申し訳ないのであります。

英語偏重の風土に異を唱えたいコトもございますが、ここはぐっと我慢をして、まだまだ文法原理主義者として、ここはぐっと我慢をして、土台づくりにはげみましょう。コツコツとやっていけば、きっとイイコトがあると信じて。(第2章の外国語幻想では、黒田氏がこういったうっぷんに対して味方をしてくれます^^)

私、黒田氏の目線や語り口がとても好きなんですが、大好きな須賀敦子さんの著作と訳書に触れられていて、なるほどー、と親近感を得てしまいました。それから、第4章では、charonさんの大切な本『フィンランド語は猫の言葉』(稲垣美晴著)も紹介されていました。購入しようと検索したら絶版になっていてガッカリしたのですが。サローヤンも紹介されていて、なんだか嬉しかったな。

最後に。外国語学習者にむけた黒田氏のエールをご紹介しましょう。

国語学習にとって最も大切なこと、それはやめないことである。
「続けること」なんていう積極的なものではない。とにかくやめない。諦め悪く、いつまでたってもその外国語と付き合っていこうという、潔くない未練たらしい態度が必要なのである。