広場にて

夕食を物色しがてら、旧ユダヤ人居住区のあったヨゼホフ地区を散策。いくつかあるシナゴークを目印に地図を見ながら歩いたのですが。

広場に出てしまう。

別方向からトライしても。やっぱり広場に出てしまう。

この広場、「旧市街広場」といって、ヤン・フスの銅像やティーン教会がある、プラハの名所です。かなり広いため、人が多くてもそんなに気になりません。皆、思い思いに屋外のカフェやベンチでくつろいでいます。しかし、人ごみの中でワタシはぽつんと1人で、しかも空腹と疲労感でいっぱいで、「どうして旅になんか出たんだろうな…」と哀しい気持ちになっていました。

そのとき。人ごみの中から慣れた日本語が、ワタシの耳に飛び込んできました。「ふるさとのなまりなつかし」の気分です。ベンチに座ったご夫婦が、旅の越し方を振り返って、のんびりとおしゃべりをしていました。ワタシはついふらふらと、その方々に寄ってゆき、話しかけてしまいました。すると、けげんな顔もせず、「あらまぁお1人で旅行?疲れたでしょ、こちらに座れば」と言ってくださり、しばらくの間、おしゃべりをすることに。

ツアー旅行でドイツから東欧の都市を回っておられること、だんなさんがバッハがお好きなこと、定年前にバッハ好きが高じてチェロの稽古をしていること、ドレスデンで偶然入った教会でバッハのオルガンが聞けたこと…など伺いました。とっても嬉しそうで、聞いているワタシも嬉しくなりました。別れ際におじさんが、「僕ははじめて人生を楽しむ、ということを知った気がします」とおっしゃったのが印象的でした。


とりあえず、帰り道を確保してからご飯を食べようと思い、トラムの駅がある「共和国広場」への最短ルートを看板で探しました。その脇に、おじさまが二人、立ち話をしています。ワタシが、手元の地図と看板を照らし合わせてうなっている間中、彼らはその場を動こうとしません。何か真剣にギロンしている様子です。

てっきり地元の人たちだと思い、一生懸命チェコ語で「共和国広場ヘ、ドウヤッテイケバヨイノデスカ」と尋ねました。彼らは微笑んでいます。もう一度繰り返しました。笑顔が崩れて、笑い出しました。「私たちも地元の人に間違えられているよ」彼らが話しているのは英語でした。ロンドンから来たという二人組です。

「共和国広場?なぜ共和国広場へ?」ホテルに向かうトラムの停留所があるからなんですけど。トラム5を使って帰るんです。「テイクトラム5?テイクファイブ?」踊りながら歌い出すおじさまたち。「なぜもう帰り支度をするの?」「こんな文化的で歴史的な街にいて。もう帰るの?」と踊りながら歌いながら。「見てご覧、ここには素晴らしいものがたくさんあるよ」「もう帰るのかい?他にしたいことはないの?」二人交互に。掛け合い漫才のように。

「帰りたくなくなってきたでしょ?」「さぁこれから何がしたいか言ってごらん」と言われても…と、とりあえずビールかな。
「ビールもいいけどさ」「お芝居はどう?」「ブラックライトシアターって知ってる?」知ってます、機会があったら行きたいなと思っていたけど。
「じゃぁブラックライトシアターに行こうよ」「その後でビールを飲もうよ」

なぜか。あまりに楽しげなおじさまたちに連れられて、ワタシはお芝居を見に行くことになったのでした。赤い靴はいてた女の子は異人さんに連れられていっちゃったんです。いじんさんが「いいじいさん」じゃなかったどうするんだろ。