出国と入国

「立って座って、立って座って。タバコ吸うためのエクササイズだね。タバコを吸って健康になろうって、どこかに書いてあるんじゃないか?」
ウィーン空港の登場待ち合い室にて。喫煙コーナーでぼうっとタバコを吸っていたら、隣のおじさんがつぶやいたので、思わずケラケラ笑ってしまいました。NYからやってきたおじさまで、ワタシが日本からきたと知ると、自分は東京どころか、横浜、用賀、大阪、福岡、北海道…と行ったところを数え上げ、いやぁいい国だった、と。よく日本は行かれるようでした。言葉の話になり、チェコ語はできるか尋ねられ、チェコ語は無理だがロシア語を少し勉強している、と言うと、ロシア語の会話練習となりました。で、そのロシア語を聞き付けた人が二人、ぶわーっと話しかけてきました。ひとりはリトアニア出身の人で、もう一人はブタペスト出身の人。みんな、なんで今頃ロシア語を?といぶかります。

趣味です、という言葉がわからなかったので、ロシアを気に入っているから、と答えると、変な子、と言われました。でもみんな優しくて、この変なヤポンカの会話練習につきあってやろうと、猛烈にロシア語を浴びせられました。ウィーン空港でロシア語レッスン。大変でした。

疲れたので英語に切り替え、ワタシの心配していることを聞きました。どうみても、この待ち合い室、搭乗ゲートがないのです。カウンターと椅子が並んでいるだけで、窓の外へのゲートがないのです。NYから来たおじさまに尋ねると、「心配ない、心配ない。世界は広い、ゲートのない待ち合い室だって世の中にはあるさ、きっとこの空港は、天井があいて飛行機がやってくるんだろう」と。

果たして、出口はカウンター後ろのロッカーのような扉でして、階段で降り、バスにのって飛行機に向かうんでした。皆、時間が来るとワルシャワへ、リガへ、ブタペストへ、そしてワタシはプラハへ。入ることと出ること。時間が経ったということ。どこにも出口は作れるんだな…と変なことに感心して、ウィーン空港を後にしました。

飛行機は、なかなか飛ばず、プラハ空港には10分ほど遅れて到着しました。11時には、友人の小春(仮名)が車で迎えにきているはずです。出国審査には長い行列ができていて、いっこうに進む気配がありません。「11時ねっ」と強く言った手前、ワタシは焦りました。おまけにワタシの後ろに並んだ日本人女性二人連れが、なんだか真剣にどんな男性が自分の生涯の伴りょにふさわしいか、大声で述べ立てているのです。どうやら1人は28才で、結婚するにはもうリーチで、しかも日本の男性は自分にはあわず、アメリカ人男性が適当なようなんですね。だったら、さっさとアメリカ人男性を探して、口をつぐんでおくれよ、と振り向いて言う勇気がワタシにはありませんでした。いらいら。

一方、壁の向こうで小春ちゃんは。駐車場に止め、エンジンを切ったあと、助手席の窓が閉まらなくなったと、大慌てで方々に電話をしまくっていたらしいです。窓が閉まらないと、寒いし、駐車できないし、大変なことになると思って、修理工場やディーラーに電話をかけまくっていたらしいです。しかし、その日は土曜日で担当がつかまらず、ワタシがもうすぐ出てくるどうしよう、いらいら。という状態だったらしいのですね。

プラハ空港の出国審査も、EUの加盟・非加盟国によってレーンが別れていて、EUの方はウォークスルー状態でした。非加盟国は、ビザが必要な国も必要無い国もごっちゃになっていて、なんだか時間がかかっていたようです。

そんなわけで30分ほど待って、ようやく解放されました。小春ちゃんと会って、お互いにupset状態だったと分かって、なんだかおかしかったです。ちなみに、車に乗って、エンジンをかけ、ワタシが窓のボタンをウィーンと動かすと、窓はあっさり閉まりました。