杉浦日向子さん死去

百日紅 (上) (ちくま文庫)
漫画家の杉浦日向子さんが46歳でお亡くなりになりました。「隠居」されてた旨は存じておりますが、あえて「漫画家」と記させていただきます。ご冥福をお祈りします。

ワタシにとってのvery best of 杉浦は、「百日紅」です。北斎と娘のお栄、居候の善次郎(のちの英泉)を中心に歌川国直、少年だった国芳…大好きな浮世絵の絵師たちが次々と登場し、大喜びでかぶりつきで読んだものでした。

北斎は、散らかし屋。部屋がどうしようもなくなると引っ越してしまう。ある日、お栄さんが紙くず屋を呼んで、反故紙を一掃してしまい、「俺のくずを捨てちまった」と嘆く北斎。なんてかわいらしいじいさんなんでしょう。

国直とお栄さんの橋の上の出会いも秀逸。国直が馬のクソを踏んで顔を「ふぎゃ」っとさせたら、向こうから来るお栄さんも顔「ふぎゃ」っとさせた。いかすオンナだろ…と言う国直とお栄さんの淡い交歓も、また見どころ。

国芳が武者絵を描きはじめるきっかけとなったエピソードも良かったなぁ…今、本が手元にありませんが、いくつもいくつも印象的なシーンが思い浮かびます。

八犬伝〈上〉 (朝日文庫)
北斎については、山田風太郎の「八犬伝」と併せて読むとなお面白いかと。

ああ、本当に素晴らしい作品を残してくださって、どうも有難う。

追記です。
八犬伝」で何故北斎?と思われた方に。この小説は、「実の世界」「虚の世界」と入れ子になっていて、前者で八犬伝の作者・滝沢馬琴の周辺、後者で馬琴が描いた八犬伝という仕立てになっているのです。クライマックスに向かうにつれ虚実の世界が…というダイナミズムもさることながら、その馬琴の周辺をちょろちょろしてる北斎が絶妙のアクセントになっていて、ワタシは大好きなんです。山田風太郎センセも心から愛する作家の1人です。お勧めです。